意匠としての化石の魅力

―アンモナイトに魅せられて(4)―

福岡幸一 (版画家)

人類が最初に化石に関心を抱いたのは、10万年以上前である。ネアンデルタール人が化石を採集していたという事実が知られている。

「古生物」には、地球の激変と繰返された生物たちの自然淘汰、即ち地球の歴史と生命の痕跡が刻みこまれている。あるものは絶滅し、あるものは時空を超え機能と形状をほとんど変えずに生き続け、「生きた化石」と呼ばれるようになった。

アンモナイトは中生代(三畳紀・ジュラ紀・白亜紀)の3億年を越える期間、地球上に1万種以上が生息していた。北海道で産出されるアンモナイトは白亜紀後期が中心である。化石がノジュールとなって保存されたことで、保存状態が抜群となった。多種多様の属・種が発生、世界でも有数のアンモナイトの産出地なのである。地球の激変に対応した特殊なものが採取されており、生息期間が短く限られた地層で産出する。私はそのフォルムの一つひとつを形にし、属にこだわって「アンモナイト版画」の制作を続けていきたいと考えている。

私はアンモナイトの本作りの機会を得、道内の多くの化石仲間から多種多様の化石標本の提供を受けることができた。私はアンモナイトの殼の完全な姿に興味があった。その中で、科によってそれぞれの特長があることがだんだんと解明された。アカントセラス科は肋に突起が有り、その突起は住房に向かって大きくなり…だんだん小さくなり消えて住房の先では肋のみになる。この特長は多くの属で共通し、突起のあるものは、その他の科も同様だった。実に合理的で機能的である。また、アンモナイトが成長していく時、じゃまな突起があるとそれを切り落としながら巻いていたということが、化石にその痕が残っているのだ。現在の巻き貝も外套膜を使い酸を出し突起を切り取っているようだ。

マストリヒチアン ノジュール
2007 マストリヒチアン ノジュール 28.3cm×24.7cm

アンモナイトには「正常巻き」、「異常巻き」の2タイプがある。異常巻きは奇形と考えられていたが、コンピュータを使った殼の解析の結果、異常巻きと同じ形状の図形がうち出され、一定の法則に従った秩序が潜んでいることが分かった。現在は、「平巻き」、「立体巻き」と呼ばれるようになっている。

我々人間は自然界にある生物を研究し、黄金律を調べ黄金比を見いだし、建築、彫刻、絵画などに応用してきた。それは、時間を越えて生き続けてきた生物たちの美しく無駄のない姿がデザイン化されたようなものだと私は思う。

恐竜はアンモナイトと同時代の生物。最近の研究では中国大陸の自亜紀前期の地層から羽毛の付いた恐竜の化石が数多く発見され、鳥類に進化したと考えられるようなった。地球のドラマである。まさに「古生物学」は、地球科学と生物科学とが重なり合っているものである。

人類は46億年の地球の歴史と生物の起源を知る上で、重要なメッセージを化石から受けることが出来たのである。

6500万年前アンモナイトが絶滅した最後の時代、マストリヒチアン期のノジュール。3科・3属。上の3個がフィロセラス科 Hypophyllo­ceras (Neophylloceras) heto­naiense (Matsu­moto, 1942) ハイポフィロセラス属でアンモナイト目の元にある科である。下のくびれのある1個はパキデスカス科 Patagiosites com­pressus (Matsu­moto, 1954) パタジオサイテス属。もう1個はテトラゴニテス科 Tetra­gonites (Tetora­gonites) terminus Shigeta,1989テトラゴニテス属で自亜紀前期の終わり頃に出現し、後期の最後の時代まで生き続けた属である。この時期、アンモナイト類はすでに衰退していたようである。

『美術ペン』123号(2007年12月25日発行)より

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