北海道版画協会の果たした歴史的な役割

福岡幸一 (版画家)

昨年、念願であった『私の銅版画と北海道版画協会(私)史』を私家版小冊子として発刊しました。北海道版画協会の半世紀は版画の啓蒙と普及、多くの作家や愛好者の育成、加えて版画というジャンルを社会的に認知させてきた歴史といえるのですが、その内実を綴りたかったのです。

北海道版画協会の発足は交錯する諸事情や頻繁な会員の出入りが重なり、『北海道版画協会小史(1975~2008)』の設立年に誤りがありました。誰が関わったのか由来が欠落し、更に年次別入退会者の確認が出来ないままになっていました。その事をハッキリさせなければ北海道版画協会の歴史的価値を明確にさせることはできない、と私は思ってきました。

北海道の創作版画の産声は1925年、詩と版画『さとほろ』創刊とされます。一方、公募展は1925年の道展設立と1945年の全道展設立により、中央画壇で活躍していた先輩たち(川上澄生、前田政雄、北岡文雄ら)の活動が始まっていました。

北海道版画協会の前身は1954年、「札幌版画協会」発足によります。全道展が発足してから9年も経過していました。

第1回北海道版画展
第1回北海道版画展
上段左から:澁谷栄一、一原有徳、伊藤義ー、佐藤忠夫、成田守康
下段左から:千田恭子、渡辺智子、尾崎志郎、大本靖、浅野武彦、阿部貞夫

1958年7月、道学芸大学札幌分校(現:北海道教育大学札幌校)で札幌版画協会主催の版画講習会が開催されました。銅版画は講師に駒井哲郎を招き、澁谷栄一が助手を務め、木版画は北岡文雄が講師で、補助を大本靖、尾崎志郎が務めました。1958年11月、「第4回札幌版画協会展」が「第1回北海道版画展」として開催され、その時、「道版ニュースNo.1」(1958・12・10)が発行されたのでした。こうした流れの結果として、1961年6月、北海道版画協会設立総会が開かれました。創立会員は34人でした。会長に道学芸大学札幌分校、戸坂太郎教授を迎え発足したのです。

「道版ニュースNo.5」(1961・8・31)に会長戸坂太郎の挨拶文があります。「優れた先輩作家をもつ本道だが……在住作家にもその画業は昨今高く評価されるほどである。今回機をえて全道に在る作家・同好者を一丸として北海道版画協会が発足した。これは我々にとり誠に心強く、この団結を基盤に今後郷土版画の向上にいっそうつとめていきたい。」とあります。並んで「北海道版画協会の誕生を祝して」も掲載され、道出身(日本版画協会会員)と匿名ではあったが、前田政雄からの熱いメッセージがありました。

1962年、「第4回北海道版画展」(大丸ギャラリー)は「第4回北海道版画協会展」に改名し開催されたのですが、このことが北海道版画協会の発足時期を解りにくくしています。

さて、「道版(協)ニュース」には、「道版ニュースNo.2~17」の5年問にわたりオリジナル版画付きの「技法の頁」が連載されていました。諸先輩は会員たちへの技法継承をしながら、社会的な啓蒙活動と、交流・叱咤激励をし続けていたのです。

1970年、「第10周年記念北海道版画協会展」を開催。会は交流と叱咤激励の下、その目的でもある版画の講習会を開き、版画の啓蒙、社会的地位を高めていきました。

北海道版画協会30周年記念パーティー
北海道版画協会30周年記念パーティー 三越札幌店:ライラック 1989.11.10

1974年は会始まって以来の大量の退会者が出ました。今振り返れば、前年の「道版ニュースNo.27」に、匿名ではあったが会員の展覧会評価を載せたことが発端で論議が起きたと考えられます。翌1975年、大同ギャラリーの開設を機に年2回の会場の無料提供を受け、定期的な展覧会の開催を続けることができるようになりました。同年、15周年を機会に、初めて作家紹介も兼ねた『北海道版画協会作品集』の図録ができました。1979年、「北海道版画協会創立20周年記念展」を開催。「北海道版画協会作品集1984、同1989」で30周年への財政的な準備をしました。そして1989年、「北海道版画協会創立30周年記念展」は、北海道立近代美術館で開催され、同館では初の版画団体展となりました。会の存在とその歴史が、北海道における版画の質量とともに充実させ花開かせるものとなったのです。記念パーティには東京からかけつけた北岡文雄、元創立会員渋(澁)谷栄一、渡会純介と寺崎源治らの顔があり、一緒に祝っていただいたのでした。

会は版画を志す者にとって大きな「あこがれ」となっていました。版画は、社会的にすでに自立独立した世界を築いていたのでした。

1991年から、芽室町で隔年4回の移動展が聞かれています。40周年創立記念展に向けて「北海道版画協会作品集1994、同1999」が発行され、1998年には「北の服画家たち’98展(40周年プレ展)」、1999年6月、道版協会員による公開講座(札幌芸術の森・版画工房)、12月「北海道版画協会創立40周年記念展」(北海道立近代美術館)と、行事がたて続けに行われました。記念展では「版画みやぎ展」創立会員の阿部貞夫の特別展示もあり、会場全体がお祭り騒ぎで賑わいました。祝賀会では更科秀、尾崎志郎らが会場を盛りあげ、若い会員たちもまた大いに気勢を上げたものでした。

北海道版画協会展
創立50周年記念展会場前で 2009.11

『北海道版画協会作品集2009』の発行と共に、同年、「北海道版画協会創立50周年記念展」(北海道立近代美術館)が開催されました。創立記念展としては初めて、創立会員22人(現5人、物故4人、他)、物故会員2人の展示が行われました。会場では会の歴史の紹介資料と共に版種の解説や道具などが展示されました。

版画の技法はここ20年間で新たな段階に入りました。木版、銅版、リトグラフ、ステンシル、合羽板、モノタイプ、コラグラフからミクストメディア、インクジェットプリントなど多種多様になり、版画の概念が社会の進化と共に大きく変化を遂げてきています。

五十余年にわたる会の歴史的役割とは、公教育でないステージで果たした作家の孵卵器や揺り籠としての役割と社会的啓蒙、普及活動でありました。この両義は今日でも忘れてはならない会の旗印であるでしょう。

この間に在籍した作家は149人にのぼり、「会」は現在43人で活動を続けています。

小冊子の執筆に際して、大本靖、浅野幌、また会を離れたとはいえ北浦晃、玉村拓也、渡会純价など多くの関係者から資料や情報の提供を受けました。また、北海道立近代美術館、札幌芸術の森美術館からも責重な資料の提供を戴いて、ようやく「北海道版画協会史」に目途がつきました。20年以上抱えていた自分自身の課題に終止符が打て、さらに重責を担った歴代の事務局長名も判明しました。この問、ご協力いただいた関係者に深く感謝する次第です。

これからも会として、先輩たちが作り上げた事業を会員が継承すると共に、大いに学び研讃し形に残すことを念願しながら、自身の決意ともいたします。

(文中の敬称は略させていただきました)

2013年11月

『美術ペン』141号(2013年12月25日発行)より

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