旧永山邸の庭にギンドロの樹がある

―木に向かう(4)―

福岡幸一 (版画家)

数年前、北海道庁から苗穂駅前までまだ電車が走っていた頃から、私は旧永山武四郎邸の存在を知っていた。サッポロビール工場の脇にあり、明治期の和洋折衷形式の建築で、興味ある建物であった。三菱鉱業セメントの寮として使われていた。

1990年(平成2)、札幌市中央区の高層マンションとサッポロファクトリーの狭間に、この旧永山武四郎邸と庭園のある永山記念公園が開設、市民に公開された。

永山武四郎は屯田兵の育ての親として知られ、永山邸は屯田兵事務局長時代の私邸として明治10年代前半に建てられた。『札幌繁栄図録 1887年(明治20)』に収録された絵図には、高い木製の塀で囲まれ、正門に屯田兵が一人銃を持ち門衛を務めている様子や庭木が描かれている。

「早春のギンドロ」
2003「早春のギンドロ」(30cm×30cm)

2000年、雪が残る春、公園には一際大きな樹が伸び伸びと立っていた。灰褐色の美しい木肌に陽の光が眩しく輝いていた。庭師に「ドロの木」であることを教えられた。名前の音の響きに嬉しくなり、いつか描いてみたい樹となった。その後、葉を図鑑で調べると「ギンドロの木」とあった。ウラジロハコヤナギ。ヤナギ科のポプラ属で別名「ギンドロ」。葉の裏が銀白色。ヨーロッパ中南部、中央アジア原産。一方、「ドロノキ」はドロヤナギの別名であり、葉の裏が緑白色。朝鮮、樺太、中国、シベリア、北海道、本州中部以北に分布しているとのことである。

2003年春、ギンドロの樹の下絵を描きに公園に向かった。ギンドロの木は明治中期に日本へ移入されていた。この樹が永山武四郎邸の建築時に植えられたと考えると樹齢は120年ほどである。樹高は30m近くあり、幹周りは3mもある。根元の木肌は黒褐色で、幹は縦に深く何カ所も裂けている。古い多くの枝は黒褐色で星の様なヒョウ柄模様に覆われている。1本の枝は傍らのイチイの木に乗り、枝先は刺さり込むように伸びていた。周りには幸い大きな木もなく、この樹は自然の樹形をなし見事である。通うこと7回、下絵は完成した。

公園には、ハルニレ、ハリギリ、ネグンドカエデ〈北米原産〉、ウラジロハコヤナギ、ニワウルシ〈中国原産〉、キタコブシ、エゾヤマザクラ、ソメイヨシノ、フジなどの落葉樹。イチイ、ゴヨウマツ、ヨーロッパクロマツ〈ヨーロッパ原産〉、ニオイヒバ〈北米原産〉、コウヤマキの針葉樹などの木もある。ここには、原始林時代からあった樹と明治の開拓当時に植えられた樹が1世紀を超えて大切にされ、今も生き続けている。

この夏、自宅付近の河原でドロノキを確認した。幹はヤナギの木と同様の特徴があった。

『美術ペン』110号(2003年8月29日発行)より

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