アンモナイト版画を制作して

―アンモナイトに魅せられて(3)―

福岡幸一 (版画家)

20数年前、私はアンモナイトを採取する機会を得た。その後、ノジュールから化石を取り出すクリーニングに取り憑かれ、化石の虜になってしまった。彼らは大陸棚の広範囲に生き続け、地球の激変に自然淘汰を繰り返すなかで、多様な形をとった。私はアンモナイトを作品にしたいと模索を続け、化石からのメッセージと向き合っていたが一枚の下絵すらも描けない状態だった。

2002、3年と果樹の木を描き、樹木についての達成感を得た事もあって、次のテーマの模索を始めていたが、これという出会もなかった。

2000年6月、手持ちのアンモナイトを初めて2点スケッチし、アンモナイトに素直に向き合えば良いということに気がついた。100枚の下絵を制作と2004年からの「アンモナイト版画展」を目標とすることにした。アンモナイトは、人間の築いた歴史と文化の「考古学」とは違い地球の歴史を刻んできた「古生物学」である。そのことをしっかりと自分に言いきかせた。作品にしたいアンモナイトは数多く、化石仲間、三笠市立博物館、中川町自然誌博物館に足を運び、2005年暮れには100属の下絵を描き終えることができた。属と学名と産出時代を作品に入れる「文字入り」をテーマとにしたため標本的になりがちではあるが、そこをどう作品化するかが課題となった。

版画を始めて40年。白黒にこだわり、技法的にエッチングとアクアチントのみで制作してきたのだが、アンモナイトの版画になると多様性を表現しきれないと感じた。これまでのこだわりを捨て多少経験のあるサルファチント、シューガーチントと新たにメゾチント、ソフトグランドエッチング、ヘイター(一版多色)さらに、リトグラフにも取組んだ。セピア、ブルーと色も増やし、作品によっては雁皮紙刷を使った。その結果、雁皮紙刷りの線は柔らかく、メゾチントは神秘感をもたらし、サルファチントのグレーはアクアチントよりも柔らかい表情になったのには驚いた。さらに、色数も増え表現の幅が広げられた。

ロツゼイテス
ロツゼイテス 2007年 20.0cmx24.7cm

北海道には白亜紀前期・後期の地質区分(1億2400万年から6500万年)の地層がある。それぞれの産出時代別の組み作品と各時代のノジュールを描くことや科、亜科、亜属、属の組み作品でアンモナイトのそれぞれの顔を別の形で表現することが私の楽しみでもある。そして、アンモナイトの魅力をどう伝えるかが私のもう一つの仕事だと思っている。

「アンモナイト版画展」はエルエテギャラリー・札幌(2004)、三笠市立博物館(2006)、中川町自然誌博物館(2007・7)などの個展を8回重ねた。コンチネンタルギャラリー・札幌(2007・6)では今まで制作したうちの89点の作品をゆったりとした空間に並べることができた。

北海道は世界に誇る白亜紀アンモナイトの宝庫である。属を中心に1属でも多くを制作し続けていきたいと考えている。結局のところ、私は「アンモナイトとは何か・北海道のアンモナイトの奥深さ」を、版画を通して確かめてみたいのかもしれない。

Lotzeites Wiedmann,1960(ロツゼイテス属)は白亜紀セノマニアン層にあり、この絵の標本はLotzeites aberans (Kossmat,1985)である。ロツゼイテス属の脊は角張り、肋は溝状になり、腹部側に3個の突起を持ち2個目の突起から分岐をしている。住房には所々に挿入肋がある。また、腹部側の突起は大きく横に張っている。現在、日本では中川からしか産出していない。この標本は中川町自然誌博物館の所蔵である。

『美術ペン』122号(2007年09月14日発行)より

inserted by FC2 system